音楽は稼いだ!!

音楽エッセイ

神曲プロデューサー(まじめ)

 昨日のアレではアフィれるものもアフィれない気がしたのでまじめな記事も書くことにする。いや、アレだって大まじめに書いているのだが、それはそれ。

 集英社から手紙をもらったのは一昨年の二月だった。手紙、である。郵便で仕事を依頼されるのははじめてのことだったのでかなり驚いた。あとで訊いてみたら推理作家協会経由だという。ありがとう推理作家協会! この仕事だけでもう年会費の元が取れた。
 とりあえず小説すばるに短編を一本書いてもらいたいとのことで、担当編集I氏のリクエストは「音楽もので、いつものように可愛い女の子が出てくるやつ」だった。そこで僕が提案したのが「音楽美味しんぼ」である。美味しんぼ山岡士郎がなんでもかんでも料理によってトラブルを解決してしまうみたいに、なんでもかんでも音楽でトラブルを解決してしまう話はどうだろうか? うまくいけばシリーズにできるんじゃないだろうか?
 この「音楽美味しんぼ」は話を説明するのにかなり便利なキャッチコピーであったらしく、実際に編集部内ではこの企画名で通用していたという。

 読んでいただければわかると思うが、ぜんぜん美味しんぼではない。あの本当に「なんでもかんでも」料理で解決してしまう力技はちょっと余人の真似できるものではない。代わりにというかなんというか、半端者のスタジオミュージシャンがプロデューサーになっていく過程を描く「音楽業界もの」になってしまった。結果としてこれでよかったのだと今なら思う。短編ごとにゲストキャラクターが登場してトラブルシューティングする流れなのは美味しんぼ風味にしようとした当初の企画の名残だ。雑誌連載は途中で担当編集が変わっているのだが、後半に出てくるゲストキャラには二代目編集T氏の趣味がかなり反映されている。第四話の窪井拓斗などほとんどT氏のリクエストだけでできあがったキャラだ。

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 連載時にシリーズタイトルを決めていなかったので、単行本化にあたって題名をつけなければならなくなった。そもそも最初にタイトルが決まっていない作品は後から悩みに悩むのが常だが、とくにこれは今まででいちばん難航した。複数案を送ってはボツ、送ってはボツ……を繰り返した。自分でも提出したタイトル案がぴんとこないことは自覚していたので、たいそう苦しい時期だった。救ってくれたのはボツを出しまくった当の初代担当I氏である。
「第一話に出てくる『神さまの音楽』っていうの、印象的だからなにか使えないですかね……」
「私も一案考えたんですけど、『○○曲プロデューサー』ってどうでしょうか……」
 電話の最中に出てきたこの二つの発言をなにげなく結びつけたとき、稲妻が走り、ご覧の通りのタイトルが生まれたわけだ。八割がたI氏のアイディアだといっていい。いや、ここは、タイトルに関してはI氏がアーティストで僕の方がプロデューサーだった――と言っておくべきだろうか。

 英題"DIVINE MELODY PRODUCER"は、デザイナーさんがカバーに英題も入れたいらしいのでなにか考えてくれ……と言われて急造した。ダンテの『神曲』の英題である"DIVINE COMEDY"のもじりだ。なにもかもぴったりハマりすぎていて自分でも怖い。
「タイトル? ああ、英題も含めて最初から決まってましたよ、天から降ってきたんです」
 ……みたいな嘘を書こうかという誘惑に抗うのに今も必死だ。

 ということで神曲の部分の読み方は「カミキョク」でも「シンキョク」でもOK。I氏は「カミキョク」、僕は「シンキョク」と呼んでいる。「カミキョク」って発音しづらくないだろうか。噛んでしまう。カミだけに。

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 こんな締めではやはりアフィれるものもアフィれないかもしれないのでもう一度貼っておく。