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音楽エッセイ

さよならピアノソナタep楽曲解説

 超絶久々にこのブログを更新する。

 よく見てみたらさよならピアノソナタのencore piecesの楽曲解説が未掲載のままだった。発掘してきたので再掲。

 

●"Sonate pour deux"

ピアノソナタ第31番変イ長調ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

 
 これは、話の核となっている架空のソナタのモデルになった曲である。リンク先はグールドが弾く三楽章で、僕が最も好きなピアノ曲でもある。嘆きの歌というカヴァティーナ風の部分とフーガの二部構成になっているが、最後はフーガから離れてたいへん華々しいコーダに発展する。
 正直僕はベートーヴェンのフーガがそこまで好きではない。主題がだいたいつまらないからだ! つまらない主題をすさまじく巧妙に使い倒すのがベートーヴェンの真骨頂だと言えなくもないが(第五交響曲とかその極みだろう)、この変イ長調のフーガは例外。主題もとても美しい。

 

・愛の挨拶(サー・エドワード・エルガー


 真冬がナオの部屋で最初に弾いてくれたピアノ曲エルガーは世間的には「威風堂々」の第一番でしか知られていないと思うが、愛の挨拶は、かなり離された二番手か三番手くらいに有名な曲だろう。後に奥さんとなる女性へのプレゼントとして作曲された小品。適度に短いのでアンコール・ピースとして人気が高い。

 

ピアノソナタ第29番変ロ長調ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

 
 真冬が二番目に弾いてくれたナオのリクエスト曲。ベートーヴェンの作品中最も巨大なピアノソナタで、演奏時間が長いだけでなく集中力を切らさないことと長大なスパンで曲を解釈しなければいけないことから、ピアニストにとっての「壁」とか「山」とか呼ばれている。現在の研究では、第三楽章までと第四楽章とがそれぞれ音域のちがう二種類のピアノを使い分けて作曲されたらしいとわかっており、どうやら作曲された当時この曲を通して弾ける人間は存在しなかったようである。さすがピアノという楽器と競いあい磨きあいながら進化してきたベートーヴェンである。
『ハンマークラヴィーア』という通称で知られているが、これはベートーヴェンが晩年、なるべく音楽用語にもドイツ語を使おうという思想に傾いて、「28番以降のピアノソナタは全部ハンマークラヴィーアソナタと題するように!」と出版社に命じたのがなぜかこの第29番にだけ適用されちゃったことから後世において通称として固まってしまったもの。ベートーヴェン、あの世で怒り狂っているのではないだろうか。

 

・Nothing But Love(MR.BIG


 哲朗がいきなりかけた曲。MR.BIG中期の名曲。こういうストリングスざくざくのパワーバラード、僕は大好物である。だからナオも大好物。しかし選曲に特に意味はなく、話の流れからそのまま曲名を連想しただけである。
 最近の僕は作品中にこうやって曲を登場させることはしなくなった。若気の至りな感じの音楽使用である。


●翼に名前がないなら

・C'mon Everybody(エディ・コクラン

 

 三人フェケテリコの最初のジャムセッション曲。ロカビリーの古豪、エディ・コクランの超スタンダードナンバーのひとつ。この清々しいスリーコードのみに力強いコーラス。いったいどれくらいたくさんカヴァーされたのか見当もつかない。
 でも僕はたまにこの曲とSummertime Bluesの区別がつかなくなる。

 

○Love & Affection(Def Lepard)

 
 三人フェケテリコの二番目のジャムセッション曲。二千万枚売れたデフ・レパード最大のヒットアルバムのラストナンバー。アルバムに先行して作られたらしく、ボーナストラックにはこの曲のライヴ版が収録されている。つまりリック・アレンがまだ両腕そろっていた頃の曲だ。
 リック・アレンがどれだけとんでもない人かというのは以下の動画でちょっとわかる。



・イタリア協奏曲(ヨハン・セバスティアン・バッハ


 橘花が買った真冬のアルバムのタイトル曲。バッハの鍵盤楽曲の中でも非常に人気の高い一曲。短くコンパクトにまとまった三楽章、くっきり引き立つ声部、躍動感にあふれた曲調で、バッハの生前も例外的に人気があった(バッハは曲が先進的すぎたために存命中は作曲家としてはぜんぜん評価されていなかったのだという)。
 当然ながらバッハの時代なのでピアノではなくチェンバロのために作曲されている。一応、ピアノフォルテという原型となる楽器はあったのだが、まだまだ質が悪く、バッハはまったく興味を示さなかった。
 真冬の演奏ということでいつも通りグールドの演奏をご紹介。これだけを聴いてもそうとはわからないだろうが、かなり異端の演奏である。普通は第一楽章をもっと速く、第三楽章をもっと遅く弾く。でもグールドを聴いてしまうと「こういう曲なのだ!」と納得させられてしまうから怖い。


●ステレオフォニックの恋

・ヴァイオリンソナタ第7番ハ短調ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

 
 ユーリと真冬がレコーディングしようとしていた一曲。いかにもベートーヴェンハ短調な曲で、ヴァイオリンソナタの中ではおそらく5番9番についで人気のある曲ではないだろうか。ただ、やはり9番クロイツェルに比べるとだいぶ素直さが目立つ。ヴァイオリンとピアノの役割分担がきっちりしていてぶつからないのだ。クロイツェルは唖然とするくらい両者のユニゾンが多いので、曲調はやや似ていても対照的。

 

○Wednesday Morning, 3 AM(ポール・サイモン


 表題曲。これは作中の解説にもあるとおり、ほんとうのほんとうにとくべつな曲である。ぜひ、ユーリと同じようなやりかたで、ヘッドフォンかイヤフォンで聴いてみていただきたい。
 僕は高校時代この曲を一個下の後輩Hくんとのデュオでレパートリーにしていた。僕ごときが歌っても大したものに聞こえてしまう、掛け値無しの名曲。


●最後のインタビュー

Kashmir(Led Zappelin)

 
 もう三度目の登場。解説は一巻のときにしたので割愛。
 開放弦だけでこの曲のベースを弾くのは無理、という話も一巻のときにした気がする。


●だれも寝てはならぬ

○だれも寝てはならぬ(ジャコモ・プッチーニ

 表題曲。世界一有名なオペラ・アリアといっても過言ではない……のだが、この曲を有名にしたのはサッカーW杯のプロデューサーだそうで、中継番組のときにパヴァロッティが歌うこの曲をかけまくっていたら史上もっとも売れたクラシックのシングルになってしまったとのこと。まあ、そんな幸運も大きいのだろうが、曲自体のパワーもやはりすさまじい。ヒットするだけの理由はじゅうぶんにある。テノール歌手にとっては非常に重要な一曲。
 ということで哲郎が実際に聴いていたマリオ・デル・モナコの音源にリンク。

 

 これにて、ピアノソナタ曲目解説もラスト。

『楽園ノイズ』もよろしくお願いします。