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音楽エッセイ

こもりクインテット!

 今年最も熱い漫画新連載、『こもりクインテット!』が月刊コミック電撃大王で始まった。普通、アフィリエイトといえど自作をほめたたえるのはなかなか照れくさくてできないのだが、『こもりクインテット!』は七割方Tivさんの作品である。僕はせりふとト書きを担当しただけだ。気兼ねなくほめることができる。ほんとうにすごい漫画になった。ぜひ読んでいただきたい。

 賢明な読者はすでにお気づきのことと思うが、このブログは音楽紹介ブログではない。そう見せかけて杉井が自作を宣伝するブログだ。最低限の慎みは守るために――というかアフィリエイトを申し込むときに音楽紹介ブログだと書いてしまったので――宣伝するのは音楽ものに留めるが、ともかく今後こうやって臆面もなく書籍や雑誌をアフィる。覚悟していただきたい。

 『こもりクインテット!』は女子高生五人のロックバンド漫画だ。この企画はTivさんへの「当て書き」である。最初からTivさんに描いてもらうと決めてキャラや話を考えた。べつに事前にスケジュールを確保していたわけではない。断られたらお蔵入りにする覚悟だった。二年ほど前、Tivさんの担当編集のT氏とタクシーで一緒になり、そのときに話を切り出した。
「漫画原作をやらせてください。Tivさんの絵で!」
「バンドものです。女の子五人の」
「女の子しか出てこない話というのは、小説では難しいんですよね。漫画ならできる。だから、Tivさんと漫画をやるなら、女の子だけでやりたいんです」
 なぜ小説だと男性の存在が必要になるのか? ふたつの理由がある。
 ひとつめは、女の子の可愛さを文章だけで表現するとき、男性の視点から描いて(直接的にでも間接的にでも)魅了された感情を織り交ぜるのが非常に効率がいいから。
 ふたつめは、女の子の可愛さを文章だけで表現するとき、男性を登場させて恋をさせるのが最大出力になるから。
 映像媒体なら両方の理由が意味を失う。なにしろTivさんの絵がそこにあるのだから、そのまま可愛さが伝わる。
 僕の熱意もそのまま伝わったのかどうか知らないが、紆余曲折を経て企画は形になった。今回の記事はその紆余曲折の内容をダイジェストでお送りする。

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 売上に貢献しない話なので担当編集には言っていないが、『こもりクインテット!』のテーマは「ロックとはなにか?」である。
 反骨がどうとかスピリットがどうとかいう精神論ではない。もっと実際的な話だ。僕らがなんとなくロックだと思っている音楽は、いったいなにをもってロックなのか。ロックを定義づけるかけがえのない部分はどこなのか。
 ひとまずの仮説は立てた。それが第1話で語られているものだ。必然的に、主人公はドラマー、と最初に決まった。となれば他の面々はなるべくロックらしからぬ楽器で固めなければならない。さて、なににするべきか……。

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 アイディアの発端はアポカリプティカだった。

Apocalyptica (iTunes Version) - Apocalyptica

 チェロ+ドラムスという形態で、メタルのカバーから始まったバンドなので必ずしも僕の好みとは一致しなかったのだけれど、やはりその音は衝撃的だった。
 しかしアポカリプティカはきっかけに過ぎない。おそらく無意識下に、「チェロはロックサウンドに合う」という認識があったのだろうと思う。有名なのはオアシスのWonderwallだ。

(What's the Story) Morning Glory? - オアシス

さらにコアなところでは、エクストリームのRise 'n Shineのチェロソロが思い浮かぶ。

III Sides to Every Story - エクストリーム

 なるほど、チェロはロックサウンドにしっくりマッチする。音が太い上に、音域がギターと似ているからだろう。では他の擦弦楽器はどうだろう? コントラバスは面白くない。なにしろ普通に使われている(ベースギターというのは非常に歴史の浅い楽器で、もともとロックンロールの最低音部を担当していたのはコントラバスだ)。ヴィオラとヴァイオリンは? バンドの中心的楽器としてはほとんど見ない。音が細すぎてドラムスに負ける。いや、しかし、だからこそ漫画でやる価値があるのでは?
 そこでメインキャラの人数を考えた。普通のバンドものならバランス的にも四人が最適だ。しかしこの話はバンドの成立する過程からしてかなり特殊になりそうだ。既存の弦楽四重奏団にドラマーが迎えられる、とするのが話の進行がスムーズでいいのでは? それに「クアルテット」よりも「クインテット」の方がタイトルにしたときに響きが可愛い。よし、五人にしよう。でも普通にヴァイオリン2ヴィオラ1チェロ1だと絵的に面白くない。キャラ付けのためにも全員ちがう楽器を担当していた方がいい。ふむ、コントラバスも弓で弾く奏法ならロックとしてはかなり珍しいし、音も分厚くなるし、やはりコントラバスも入れよう。弦楽四重奏団の第一ヴァイオリンがコントラバスに転向したことにしよう……。

 かくして奥村こよりはヴァイオリンをコントラバスに持ち替え、『こもりクインテット!』が誕生した。

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 彼女たち五人がどんなロックを鳴らしているのか、僕にもまったく想像がつかない。物語を進めながら、彼女たちと一緒に見つけていけたら、と思う。