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いつもの楽曲解説――といきたいところだが、実は今巻、「少し音楽を休んでみる」がテーマなので、なんと最後に一曲しか出てこない。
Raining (Cocco)
一曲しか出せないが非常に重要なシーンなので、選曲にはとても迷った。
何曲もの候補の中から絞り込み、結局、個人的にも人生で最も大切な一曲であるこの歌を選んだ。書き上がったシーンを読み返してみると、やはりこの歌しかないだろう、という感慨がある。
なお、youtubeのものは最後の下降進行のリフレインがフェイドアウトで終わってしまっていて根岸孝旨の歌心あふれるベースラインを堪能しきれない。ぜひアルバムver.で聴いていただきたい。
この曲については本ブログのはるか昔の記事でも書いたことだし、今さら語るべき言葉もない。ただ聴いて小説を読んでくれればよい。
……しかしこれで終わると楽曲解説としては物足りないので、QRコードから飛べるおまけページの各キャラクターおすすめ曲を贅沢に全曲紹介&解説いたしましょう。
それぞれのキャラの特徴を完璧につかんだ選曲になっていると自画自賛。書いていてとても楽しかった。
○凛子
ショパンの最高傑作を問われたら、僕ならこの曲を挙げる。
普通は舟歌(バルカローレ)というと6/8拍子、つまり2拍子系のリズムでのんびりと水に揺られる様を表現する曲なのだが、ショパンの舟歌は12/8拍子で息の長い哀切な旋律がほとんど切れ間無くずっと歌われ続ける。ゴンドラののどかさなど微塵も感じられない。
・ヴァイオリン、ピアノと弦楽のための協奏曲 / フェリックス・メンデルスゾーン
天才少年メンデルスゾーンの二重協奏曲。とんでもない大傑作なのだが長きにわたって完全に無視され、忘れられてきた。知名度の低さに加えてソリストが二人必要なので今でも演奏機会は非常に少ない。もっと有名になれ!!
・The Entertainer / Billy Joel
ビリー・ジョエルの超絶技巧が冴え渡るロックナンバー。ライヴ映像を観るとこの複雑な伴奏をこともなげに弾きながら(ちゃんとシンセリードとかにも手を伸ばしつつ)歌いこなしているのがわかる。憧れる。
○詩月
・Red River Revel / Brian Blade
今世紀のジャズドラムに革新を巻き起こしたブライアン・ブレイドの、オリジナルバンドの記念すべき一曲目。独特の浮遊感あるグルーヴがたまらない。
・Wonderland / 上原ひろみ
もはやジャズというくくりをも超えてジャンル:Hiromiとしか言い様のない領域に達してしまった上原ひろみの、比較的聴きやすいトリオプロジェクトの曲。のれるかのれないかぎりぎりの境界面に展開していく幾何学的なサウンドに酔え!
・Fool in the Rain / Led Zeppelin
あらゆるロックドラマーがシャッフルビートのお手本にした怪物ナンバー。シンプルながらも執拗に繰り返されるヘミオラのリズム(12/8拍子の小節前半部分を、ドラムス以外は3/4拍子で弾いている)が麻薬的な不安定さを感じさせる。普通にビートにのろうとすると毎回2拍目に肋骨をぐりっとこすられるような違和感があるのがわかるだろうか。
○朱音
・陽炎 / フジファブリック
フジファブリックの四季を題材にした初期四部作、"夏"編。焼き付くような情景描写力。この曲はまたキーボーディストにとってイントロからエンディングまでぎっしり美味しい部分しかなく、僕が作家バンドでコピーした中では一番楽しかった曲だ。
・You! / LANY
LAのインディーポップバンド、LANYの出世作となる3rdのオープニングナンバー。最初から最後まで気持ちよいところしかない恐ろしい曲で、さらに恐ろしいことにアルバム一枚通しても気持ちよいところしかない。今後大注目のバンド。
・Guys / THE 1975
2020年、つまり『楽園ノイズ』最初の巻を出した年、いちばん聴いていちばん泣いた曲がたぶんこれだ。
ありがたいことにThe 1975は解散せず、もうすぐ5thアルバムを出す。
○伽耶
・Sweet Emotion / Aerosmith
ハードロックの狭い枠組みにはとても収めきれない広い音楽性を有するエアロスミスの、ひときわ異質な初期ヒットナンバー。ヴィブラスラップの喘ぎを伴ってつま弾かれるイントロのベースソロはあまりにもエロティック。
・Hysteria / Muse
さる音楽誌のランキング企画で史上最高のベースリフに選ばれた歪みまくりのイントロは、一度聴いたら忘れられないほど鮮烈。ただ、ライヴだとせっかくのメロディアスなフレーズが全然聴き取れず、ベースを歪ませる難しさが如実に出てしまう。
・One Thing / One Direction
1Dのセカンドシングル。最初期の「清潔感あふれる美少年5人組で売っていこう」というコンセプトが最もよく現れたMVで、特にリアム・ペイン(最初にヴォーカルをとっているメンバー)の正統派ブリティッシュアイドル然とした麗しさは震えがくる。いや、今のリアムもかっこいいですけどね?
○華園
・YOU ARE THE ONE / 安室奈美恵
小室哲哉の渾身の作。サビの良さは当然だがAメロBメロともにまったく隙が無く、絶対にミリオンヒットさせるという気概がひしひしと感じられる。いつか、小室ファミリーという枠を取っ払ったオールスターで"日本のWE ARE THE WORLD"として聴いてみたい……。
・my graduation / SPEED
ど直球の卒業ソング――に見せかけた「前向きな失恋の歌」なのだが、当時SPEEDに熱狂していた中高生たちはそんなこと気にせず卒業シーズンにカラオケBOXに繰り出してこの歌を大合唱していたものである。
一応この曲も本編ラストに演る曲の候補にのぼったが、明らかにテイストがあわないので秒で却下された。
・Happy Ending / Cocco
復活第一弾アルバム「ザンサイアン」のラストナンバー。魔法の塊みたいな歌である。Coccoのミュージックシーン復帰はちょうど僕の作家デビューと同時期で、これを聴いてなにがなんだかわからないくらい泣いた記憶がある。
○黒川
・TONIGHT / LUNA SEA
LUNA SEAの最高傑作。ほんとにオクターヴとパワーコードだけでできている曲なのにこれ以上ないほどのV系の粋を集めたようなサウンド。アレンジとはかくありたい。
クリスチャンロックの代表格REDの壮大なパワーバラード。哀愁ストリングスの使い方がとにかく悶絶もの。
・In the End / Black Veil Brides
感動的なまでにコテコテのメタルコアのガワをかぶりつつ、ポップで親しみやすく濁りゼロのサウンドにミディアムテンポ四つ打ちビート。まさに「売れるデスメタル」。コアなメタラーからは似非バンドとしてむちゃくちゃ嫌われているらしい。良いバンドの証明みたいなもんである。
○小森
第7番とセットで作曲、初演された不遇曲。ベートーヴェンとしてもかなりの自信作だったらしい。わかる……。
チャイコフスキー唯一の五楽章交響曲。また唯一の長調の交響曲でもある。賑やかで舞曲楽章が多くてメロディアスで良いところしかない曲なのに、全然人気がない……。
五楽章だから長いと思われがちだけれど4番とか6番と大して変わらんからね!
これは上二つとは比べるのも申し訳ないくらいのけっこうな人気曲。でも9番が人気すぎるんだよな……。全体的なまとまりは9番より上だと思うのでもっと演奏機会増えろ。
○真琴
・Hollow Years / Dream Theater
ジョン・ペトルーシ曰く、詞と旋律とアレンジがすべて同時に浮かんできたという、なにもかもが完璧な曲。実はこの曲も本編ラストの候補曲のひとつだった。真琴がメインヴォーカルをとれるし、「重荷が取り除かれ、聞こえてくるのは虚ろな日々の崩れ落ちていく音」という詞は卒業の歌に使えなくもない。でもやっぱりやめました。
・All At Once / Whitney Houston
ほんとにこの曲は最初どこで聴いたのか記憶にない。調べてみると連ドラの主題歌に使われていたらしいのだが時期的にも内容的にも観ていたはずがない。謎は謎のまま、歌だけがずっと心の中に残っている。
最後は、ちょっと意外性を出したいという下心も込めて、さだまさし。
さだまさしは詩人として強すぎるため小説ではまず使えない。おまけSSのトリを飾るというのがなかなかふさわしい使い方なのではないかと思う。
本編ラストの使用曲を決めるにあたって、Rainingと最後までどちらにしようか迷っていたのも、実はさだまさしだった。
・つゆのあとさき / さだまさし
今日は君の卒業式、という歌詞で始まる、一見ベストマッチの歌だ。
しかしリクエストでこれが出てくるか……? と考えたとき、やはりちがうよな、となった。代わりに最終章の章題に使わせていただきました。
あと、これ、「つゆのあとさき」という題名からわかるように実は卒業式の歌ではない。SPEEDのmy graduationと同様、恋人から卒業するという体の別れの歌なのだ。本編ではどうしても桜のイメージが欲しかったので、初夏の情景がくっきり浮かぶこの歌はちょっと難しかった。