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音楽エッセイ

楽園ノイズ6楽曲解説

発売中です。

いつもの楽曲解説。

 

Enter Sandman(Metallica


真琴の「人生はじめての曲」、メタリカ最大のヒット曲。

こんな歌で寝かしつけられたら悪夢確定だろう。MVでも子供が寝苦しそうに悶えている。小さなお子様をお持ちの方、真似しないように。

 

人形の夢と目覚め(オースティン)


僕が生涯はじめて人前で披露した曲。今ちょっと試しに弾いてみたが第二部と第三部はまだ指が憶えていた。

我が家は洗濯機のお報せメロディもモーツァルトピアノソナタ第11番第1楽章でこれまた僕が弾いたことのある曲なので、毎日の生活で僕に甘苦い記憶を反芻させてくれる。

 

白日(King Gnu


新学年一発目のエピソード。同じ高校に軽音部もあるわけで、そちらの話を一本書いてみよう――と思い立ったところで、毎度のように選曲にとても悩んだ。真琴たちは高校生としては音楽の趣味がだいぶ偏屈なわけだが、今の時代の普通の高校生はどんな音楽を愛好するものだろうか?

いくつか候補はあったが最終的にはKing Gnuに落ち着いた。決め手となった理由はなんといってもこの曲がめちゃくちゃ難しいことだ。はじめて聴いたときにはリズム構成をまったく理解できなかった。Aメロがハーフタイムフィールで12/8拍子なのだが、同じメロディをリピートしておきながらAメロ後半でリズム隊がシャッフルビートで入ってくるので一時的にすさまじい酩酊感が生まれ、Bメロでノリが統一されたときに目の醒めるようなフックが入る。アマチュアがこれを再現するのは相当ハードルが高いだろう。難しければそれだけでドラマが生まれ、真琴が介入する余地も出てくる。

 

パガニーニの主題による変奏曲(ブラームス


パガニーニの遺した最も有名な旋律である《24のカプリース》終曲を主題にした派生曲というのは、名の通っている作曲家のものだけを数えても百曲近くある。

ピアノ独奏で抜きん出て完成度が高いのがブラームスのもの。これはまた「難しさがわかりづらい渋い難曲」が多いブラームスピアノ曲にしては珍しく「わかりやすく難しい曲」でもある。さすが音楽史上最も変奏曲が上手い作曲家ブラームス、これだけの大曲なのにまったく飽きさせない。

 

パガニーニによる大練習曲第3番《ラ・カンパネラ》(リスト)


みんながよく知っている方の《ラ・カンパネラ》。

パガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番の終楽章《鐘のロンド》の主題をもとにリストが書き上げた流麗な小品。元になった曲がロンドなのでこちらもロンドだと紹介されることが多いが、AB二つの主題が装飾を変えながら繰り返されるだけなのでこれは明らかに変奏曲だろう。最後がA主題で終わるのでロンドに見えなくもないが。

超絶技巧が迸りすぎる傾向のあるリスト作品としては、非常にバランス良く整っていて演奏効果が高い希有な曲。リスト入門にも当然最適でしょう。動画を観ると素人目にはとんでもないパッセージの連続なのだがリスト弾きに言わせると「リストの中では易しい部類」なのだそうです。これで??????

 

パガニーニによる超絶技巧練習曲第3番《ラ・カンパネラ》(リスト)


みんなが知らない方の《ラ・カンパネラ》。

みんなが知っている方の《ラ・カンパネラ》も「超絶技巧練習曲」だと誤解されていることが多く(なにしろ名前がかっこいいからね!)、この曲集名で検索してもみんなが知っている方しかヒットしなかったりする。"S.140"と作品番号で検索しましょう。

最初は同じ旋律を用いているけれどアレンジがまるっきり違い、後半は長調に転じて全然違う素材が出てくるのがおわかりになるだろうか。こちらはパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番からとられている。こっちも良い曲なのだが、なにもキメラにしなくても、と思ってしまう。

なお、この曲よりもさらに前に「大幻想曲」というバージョンの《ラ・カンパネラ》も書かれていて、輪を掛けて演奏機会が無い。僕も一度も聴いたことがない。

 

Calling Occupants of Interplanetary Craft(Klaatu / The Carpenters


6巻のテーマソング。

原曲はカナダのクラートゥというスーパーバンドの曲(こちら)。しかしやはりカーペンターズ版の方がずっと良い。リチャード・カーペンターのアレンジャーとしての能力が冴え渡っている。

めっちゃ長いタイトルは、「星間船の乗組員に告ぐ」という意味で、そのまんまエイリアンに交信を呼びかける歌詞だ。実はこの曲には6月24日なんかよりずっとふさわしい日付がある。3月15日、「ワールド・コンタクト・デイ」のために書かれた曲なのである。世界中のUFO愛好家が夜空に向かってチャネリングするという、なかなかアレな日だったりする。

でもそんなんだれも知らないだろうし、電撃文庫の読者にとっては6月24日の方が何万倍も大切な日付でしょう。

この曲を最後に出そう、というのは執筆のかなり早い段階から決めていて、だから6巻は全体を通して「宇宙」がテーマとなった。これで『楽園の泉』から引いたエピグラフを6巻に持ってきていれば完璧だったのに! ……と悔やんでも後の祭り。