ホワイトアルバム現象、という言葉がある。
なじみのない言葉だろうし、説明すると少々長くなるがお付き合いいただきたい。
Self-titled Album、つまりアーティスト名と同じ名前のアルバムというものがよくある。これはデビューアルバムであることが圧倒的に多い。世に出るにあたってまず名前を憶えてもらおう、という意図によるものだろう。LED ZEPPELIN、QUEEN、THE ROLLING STONES、EAGLES、VAN HALEN、AEROSMITHといったそうそうたる顔ぶれがSelf-titled Albumでデビューしている。
一方で、ごくまれな例だが、デビュー作でもないのに自分たちと同じ名前をアルバムに与えることがある。
代表格はなんといってもTHE BEATLESのThe Beatlesだろう。
この「デビュー作ではないSelf-titled Album」には、二つの共通した特徴がある。
一つ目は、アーティスト名とまぎらわしいこと(当たり前だが)。デビュー作であればデビュー作とか1stとか呼べばいいのだが、そうでない場合呼び方にとても困る。よって、特に有名な「デビュー作ではないSelf-titled Album」には通称がつけられていることが多い。THE BEATLESのThe Beatlesは一面真っ白なジャケットなので「ホワイトアルバム」と呼ばれ、完全に定着している。
「デビュー作ではないSelf-titled Album」にはアルバムジャケットの色から通称をつければいいのでは? という流れを作ってしまったのがMETALLICAのMetallicaである。
ご覧の通り一面真っ黒なこれは「ブラックアルバム」と呼ばれ、これまた通称として定着している。
「デビュー作ではないSelf-titled Album」に共通する二つ目の特徴は、必ず傑作であるという点だ。
おそらく、アーティストとしてのキャリアを積んだ後に敢えて自分と同じ名前の作品を出すからにはぐうの音も出ないほどのものにしなければ……という気概が湧くのではないだろうか。上で紹介した2枚はどちらもバンドの最大の代表作といっていいし、知名度ではだいぶ劣るがたとえばSTONE TEMPLE PILOTSのStone Temple Pilotsなども復活の気炎を噴き上げた傑作だ。
こちらは見てわかるとおり真っ赤なジャケットであるため「レッドアルバム」と呼ばれている。
「デビュー作ではないSelf-titled Album」に、色の名前の通称がつけられ、しかも必ず傑作であること。これを音楽業界ではホワイトアルバム現象と呼ぶのである。
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ということでいよいよ今回の記事の目玉、LIFEHOUSEのLifehouseをご紹介しよう。
3rdにして満を持してのSelf-titled Album。真っ黄色のジャケットゆえに「イエローアルバム」と通称されていることはすでに言わなくてもおわかりだろう。
このバンド、本国では1stからかなり売れた有名バンドなのだが、日本ではほぼ無名に等しい。ライフハウスで検索するとキリスト教会関連の方ばかりヒットしてしまうくらいだ。僕もAppleMusicのおすすめに出てくるまでまったく知らなかった。
2020年、いちばん聴いたのがLIFEHOUSEである。
どこか荒っぽくてざりざりに汚れたサウンドと、現代的に洗練された美しい楽曲が信じられないバランスで両立しているバンドで、キャリアが深まるにつれてヘヴィさが薄れてどんどんポップになっていくのでだいぶ評判を落とすのだが(そっちも僕は好きだが)、この3rdの「イエローアルバム」は両方の魅力が最高点で結実した傑作だ。ホワイトアルバム現象の直近の好例として、全力でおすすめする。もっと日本でも売れろ。
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本題が済んだところで謝罪しておきたい。
もちろんホワイトアルバム現象などという言葉は100%僕の捏造でありどこの業界にもそんな言葉は存在しない。すみません。上記のLIFEHOUSEのLifehouseをイエローアルバムと呼ぶ人も……いることはいるだろうが……そこまで普及はしていないだろう。
たとえばDEF LEPPARDのDef Lepard(11thアルバムだ)なんて、傑作だけど別に色の名前では呼ばれていない。
あと、角が立つので具体例は挙げないが、特に傑作ではないSelf-titled Albumもたくさんあります。
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そして最後に。
ミュージシャンのみなさん、デビュー作じゃないSelf-titled Albumはマジで検索性が悪いので、このネット時代にはちょっとやめておいた方が……と思います。