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音楽エッセイ

通ぶりたい人のためのQUEEN名曲10選

 せっかく埃を払ったブログなので新規記事を書くことにする。

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットしてからずいぶんたった。日本にも五回目だか六回目だかのQUEENブームが到来したという。
 新規ファンが増えるのはいいことだ。ところでQUEENを最近聴き始めたという諸君の中に、「映画から入ったにわかだと思われたくない」「昔から聴いていた通なファンだと思われたい」といった歪んで肥大した自意識をお持ちの人はいないだろうか。きっといるはずだ。僕がそうだから間違いない。

 QUEENで好きな曲を訊かれたときに"Bohemian Rhapsody"としか答えられなくて恥をかく……なんて嫌でしょう? そんなあなたのために、古参と話していても一目置かれるようなおすすめ曲リストをつくった。

 超有名曲、大ヒット曲などは当然ながら丁寧に外した。ベストアルバム収録曲もなるべく避けた(が、これは完璧にとはいかなかった)。通ぶって蘊蓄をたれられるように解説もつけた。これであなたも四十年前からQUEENを聴き込み続けてきたかのように振る舞えるぞ!

 

1. Fairy Feller's Master-Stroke / Nevermore


 2ndアルバム"QUEEN II"からまずは2曲。

 古参QUEENファンの間で人気投票をすると"A NIGHT AT THE OPERA"を抑えて一番人気になってしまうことで有名な2nd。とくにそのSIDE BLACK、フレディ作曲のナンバーが組曲風に続くパートが人気を集めており、中でも"Bohemian Rhapsody"の前身とも呼べるような長大なクラシック風の"The March of The Black Queen"がとかく注目されがちなのだが、これは日本限定ベストアルバムにも収録されてしまって通ぶれないので回避。僕がおすすめするのはこちらの小品。つながった2曲なので続けて聴くこと。
 ぎっしり中身の詰まったファンタスティックコーラスナンバーと、ピアノ&歌のみの短いバラードのメドレーで、セカンドアルバムにしてすでにQUEENというバンドがとてつもない高みに到達していることがわかる。

 

2. Bring Back That Leroy Brown


 3rdアルバムといえばなんといっても2曲目の"Killer Queen"だが、2ndアルバムまでを聴いてみんなが期待していたQueenはそこでいったん完結してしまう。バンドメンバーもそんなようなことを言っている。だから3rdアルバム"SHEER HEART ATTACK"は3曲目以降かなり実験的な曲が続く。その中でもひときわ異彩を放つのがご紹介するこの曲で、なんとばりばりのカントリー&ウェスタンなのである。
 そうはいっても最初から最後まで濃厚なコーラスとピアノがぎっちり組み込んであるため、どこからどう聴いてもQUEEN。なんでもやれるがなにをやっても自分たちのサウンドになるという、クリエイターの個性としては最高の資質が迸る逸品である。

 

3. The Prophet's Song


 いよいよ4thアルバム"A NIGHT AT OPERA"に踏み込む。あの"Bohemian Rhapsody"が収録された稀代の名盤である。といってももちろん"Bohemian Rhapsody"をすすめたりはしない。QUEEN通を自負する人間は"Bohemian Rhapsody"を推したりしたら恥ずかしさで死んでしまう。"Bohemian Rhapsody"に対するQUEEN通の態度といえば「ああ、うん、有名だよね、QUEEN入門としてはいいんじゃないの? 色んな要素が入ってるからデパ地下の試食巡りみたいな曲だよね」くらいの冷淡さで然るべき。
 おすすめ曲に話を戻すが、これは6分というかなりの長さで知られる"Bohemian Rhapsody"をはるかに超える8分半、QUEEN最長の曲である。この蘊蓄も通ぶるのに使えるのでチャンスがあったらぜひ披露してみていただきたい(ただし"MADE IN HEAVEN"の最後に収録された様々な音素材の詰め合わせトラックが22分という長さなので、これは例外としないといけない)。中間部に、ぴったり2拍分のディレイを使ったア・カペラ・カノンが組み込まれており、これがもう芸術的である。また、長さのわりには素直な三部形式で全体的に均整が取れており、"Bohemian Rhapsody"のような散漫さ・奔放さはない。ブライアン・メイの生真面目さが感じられる端正な聖歌である。

 

4. Good Old Fashioned Lover Boy


 5thアルバム"A DAY AT THE RACE"からはこの曲。
 ベストアルバムにも収録されてしまっているので選ぶのはかなり心苦しいが、絶対に外せないので歯を食いしばっておすすめする。
 QUEENの中でいちばん良い曲は? いちばん好きな曲は? といった質問には答えようもないが、いちばん完成度の高い曲は? と訊かれたら自信を持ってこの曲だと答える。メロディからコード進行、アレンジから構成、プレイまで含めてなにもかもが完璧。この世にこんな完成度の音楽が存在しうるのかと震えるほどである。

 

5. Spread Your Wings


 6thアルバム"NEWS OF THE WORLD"といえばオープニングナンバーの"We Will Rock You"と"We Are The Champion"がとにかくぶち抜けて有名だが、そこを通り過ぎるととたんにマニアックで地味な曲が最後までずっと続く。中でも埋もれた名曲がこれ。QUEENらしいコーラスは一切なく、パワフルでシンプルなコード進行にフレディのリードヴォーカル一本。ソングライターとしてのジョン・ディーコンの才能がまさに開花しようとしている予感にあふれている。

  

6. Sail Away Sweet Sister

 

 QUEENにとっての大きな転機となったアルバム"THE GAME"。
 どういう転機かというと、ひとつにはアメリカでめっちゃ売れたこと。そしてもうひとつは、このアルバム制作と前後してシンセサイザーを導入したこと。初期のQUEENは、ブライアン・メイの独特なギターオーケストレーションシンセサイザーを使ったものだと誤解されたくなくてライナーノートにわざわざ"No Synthesizers"と書いていたくらいなのだが、中期に至ってついに着手。
 といってもシンセサイザー導入過渡期のアルバムなので、今回おすすめするこの曲は昔ながらのバンドサウンド。そしてお聴きになればわかると思うが、リードヴォーカルがフレディではなくブライアン・メイである。まったく個性のちがう卓越したヴォーカルが三人もいるのがQUEENの売りのひとつなので、メイの歌う曲は外せない。切なく骨太なロックコーラスはメイの真骨頂といえよう。

 

7. These Are The Days Of Our Lives


 そしてここで一気にラストアルバム(フレディ生前の)である"INNUENDO"に飛ぶ。なぜかというと、うむ、まあ、後期のアルバムの名曲というのはだいたいみんなベストに入っている有名曲になってしまうからだ。
 アルバム"INNUENDO"はフレディが病魔に冒されてもう先が長くないという状態で、少しでも多くの作品を残したいという焦燥に駆られて制作された一枚で、この曲もMVをご覧いただければわかるとおりフレディの痩せ細った姿はもうすでに半分彼岸にいるかのようである。QUEENとしては珍しいコンガを使ったノスタルジックなリズムパターンに乗せられて歌われるメロディは限りなく美しい。フレディの白鳥の歌である。

 

8. Show Must Go On


 そして"INNUENDO"のラストナンバー。
 ブライアン・メイ渾身の作で、キーが高くメロディの息が長いとてつもない難曲だったが、フレディは驚異の一発録りで歌いきったという。絶唱、という言葉がこれほどふさわしい歌が他にあるだろうか。
「ショウは続けなければ……心臓が止まりメイクが剥げ落ちても笑顔だけは消さずに」という詞があまりにも切実。この歌をもって、フレディは旅立った。さよならは言わず、舞台から下りることなく、ショウを続けたまま、エンターテイナーの仮面をつけたまま。

 

9. Let Me Live


 だからここからの2曲は蛇足となる。
 フレディの死後に発表されたアルバム"MADE IN HEAVEN"は、未完成素材やフレディのソロ曲などを、残ったメンバーであれこれ補完して仕上げた曲ばかり集めた一枚。有名な"I Was Born To Love You"も元々はフレディのソロアルバムに収められた曲だ(余談だがソロバージョンのアレンジはめちゃくちゃダサい)。
 この"Let Me Live"も、中期アルバム"THE WORKS"の候補曲として仮レコーディングされたもののお蔵入りになっていた一曲だという。フレディの歌がワンコーラス分しか録音されていなかったため、2コーラス目をロジャーが、3コーラス目をメイが歌っている。期せずして、3人が順繰りにリードヴォーカルをつとめたQUEEN中唯一の曲となった。これがもう最初からそういうふうに作ったのではないかと思えるほどぴったりはまっていてかっこいい(どうやらロッド・ステュアートとのコラボ曲の予定だったようである)。時を超えて完成したパワフルなゴスペルロックである。
 この曲には個人的にも思い入れがある。僕がまだQUEENをよく知らず、アルバムも2枚くらいしか持っていなかった頃、ふと立ち寄った吉祥寺のレコード店でこの曲を聴いたのだ。あれ? QUEENだよな……でもフレディじゃない人も歌ってる……あとコーラスがなんか女声も入ってて……なんだこれ? と様々な疑問が湧いてきて、家に帰って調べてみたらフレディがつい先頃病死していたことを知ったのだ。僕がほんとうの意味でQUEENと出逢った一曲である。

 

10. No One But You


  そして正真正銘、QUEENのラストナンバー。
 フレディの死後、残った三人だけで完成させた、別れの歌。この曲をもってジョン・ディーコンはミュージシャンを引退し、以降まったく表舞台に出ていない。
「他のだれでもなく、ただきみのために泣いている……」
 ロジャーとメイの乾いて錆びた歌声が胸に迫る。

 

 以上、QUEEN通ぶりたい人のための10選をお届けした。

 最後に。10曲ぽっち聴いて通ぶれると思うな! アルバム全部買って全部聴け!