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音楽エッセイ

東池袋ストレイキャッツ曲目解説

東池袋ストレイキャッツ (電撃文庫)

 発売中である。いつものように曲目解説。第1話と第2話には実在する曲名は出てこないので第3話から。
 ミウがハルにリクエストしたのはもちろんこの曲だ。

 恥ずかしながら僕もジョン・デンヴァーはこの一曲しか知らない。みんなそうだよね? ね? ファンの方々には申し訳ない。

 そして章題の由来にもなったのはこの曲。

 ELOはスタジオ盤よりもライヴ音源の方が断然素晴らしいバンドである(なぜかライヴの方がたくさんハモる不思議なバンドでもある)。この曲、「古き良き」を百回くらいくっつけたくなるようなオールドファッションなディスコナンバーで、「あのELOも当時の流行に呑み込まれてしまった……」みたいな否定的な文脈で語られることが多いかわいそうな曲なのだが、そういう方はぜひともライヴ盤を聴いてもらいたい。

 第4話、まずはこの曲。

 言わずと知れたポリスの大ヒット曲。BBCの調査によると、「史上最も著作権で多く稼いだ曲」のTOP8だそうで、どれだけ世界中のラジオやテレビで流されたかわかったものではない。ポリスは決して一発屋ではなく、出す音源すべてメガヒットさせたビッグネームなのだけれど、そのポリスの売り上げの三分の一がこの曲によるものなのだそうだ。
 そしてもう一曲。

 こちらも言わずと知れたベン・E・キングの大ヒット曲。前述のBBCの調査のTOP6だそうだ。
 それが、

 こうなる。
 マッシュアップの組み合わせとしては間違いなく最も売り上げ合計額が高い二曲ではないかと思う(だからどうしたというものでもないのだが……)。文中でさらっと「コード進行も同じ」などと書いてしまったが、実際はポリスの方はチューニングが半音下げである。あとキングの原曲もチューニングがほんの少し低い気がする。
 このコード進行の一致は奇蹟でもなんでもなく、I - VI - IV - Vという循環は黄金進行のひとつだ。たとえばVAN HALENの一時期のヒット曲のサビはみんなこの進行でできている。

 この曲などは同じくキーがAメイジャーだしテンポも近いのでがんばればマッシュアップできると思う。
 キングとポリスのマッシュアップがほんとうに奇蹟たるゆえんは、史上最も有名なベースリフとギターリフの組み合わせであるという点に尽きる。ところが世に出回っているマッシュアップは残念ながらポリスのアレンジにキングの歌をのせるというものがほとんどだ。音源のビートの強さからしてしょうがない面もあるので、どなたかぜひ、実演でこの二曲を組み合わせていただきたい。

 第5話。
 ミウがハルにリクエストしたのはこの曲。

 文中では興ざめなので特に解説しなかったが、あくまでも「アルバムの最後の曲」であって「最後にライヴで演った曲」ではありません。というかREVOLVERの曲はすでにスタジオ技術を駆使しすぎてステージでは再現できなくなっており、ライヴでは一曲も演奏されていない。

 ミウがステージで最後に演ったのはこの曲。

 文中では興ざめなので特に解説しなかったが、あくまでも「アルバムの最初の曲」であって「屋上ライヴの最初の曲」ではありません。しかしこの一発録りの緊張感あふれる演奏はたまらない。

 最後に登場するミウのシングル曲は、もちろん実在しない。しかしモデルとなった――というかこの話の着想元となった曲は存在する。
 これだ。

 ここ十年間で発表された日本の楽曲の中でも、まず間違いなく最もすごい曲だろう。
 なにがそんなに(売り上げ以外にも)すごいのか? 解説する前に、少し考えていただきたい。この「キセキ」のサビはどの部分だかわかるだろうか。おそらくだいたいの人は、「二人寄り添って歩いて〜」の部分だと答えるだろう。
 ところが、みなさんがBメロだと思っているこの部分は、サビだと思われている部分の後半で回帰する。コード進行もBメロとサビはほぼ同じである。
 つまり「キセキ」は、出てくるフレーズを順番通りに解釈するとA - B - B'という不思議な構成を持っている曲ということになる。
 だが待ってほしい。そもそも、サビをサビたらしめる要素は構成うんぬんではなく、なによりも雄弁な「ここがサビだ!」という存在感を持つメロディではないのか。そして、「キセキ」のメロディをぱっと思い浮かべろと言われたら、やはり大多数の人は歌い出しの部分が出てくるのではないだろうか。
 もうひとつ注目していただきたい。1コーラス目の終わりだ。すぐに2コーラス目の歌い出しにつながっている――というよりも、ここが1コーラス目と2コーラス目の切れ目ではまったくないように聞こえる。
 もうおわかりだろう。「キセキ」のサビは歌い出しの部分だ。サビを最初に演ってからAメロに入る、一時期の小室哲哉が多用していたあの構成である。なぜ一聴してそう聞こえないのかといえば、ひとつめの理由はもちろんアレンジでA < B < B'と盛り上げているからだが、もうひとつの理由はBとB'のメロディもAに劣らないサビ級のキャッチーさを備えているからだ。つまりこの曲は三曲分のサビをぶち込んであるのだ。奥田民生あたりは「キセキ」を聴いて「もったいねえ!」と叫んだにちがいない。俺ならこの三曲分のアイディアで三曲作って三倍売るわ、と。

 そんなことを考えていたら、この第5話のアイディアにつながった。
 僕自身も、三曲分あるなら三曲にして聴かせてほしいな……と思ってしまうタイプだが、そういう節約的な考えではこの「キセキ」は生まれなかったわけだ。GReeeeNに深く感謝したい。



 最後に、カケラバンクのいちばん好きな曲を紹介しておしまいとさせていただく。

 二人がまた一緒に歌ってくれる日を、ずっと待っています。