単行本第1巻発売中である。
毎度のように登場楽曲解説といきたいところだが、実は僕は(原作者のくせに)こもりクインテットの五人がいったいどんなサウンドを奏でているのかうまく想像できない。というか、このバンドの編成はあきらかに無理がある。擦弦楽器(弦をこすって音を出す楽器)はアタックが弱いので、必然的にビートを刻むのに向かない。作中の、特に典子とこよりはかなりものすごい弾き方をしているものと思われる。
連載が始まる前に、担当編集に「この五人は具体的にどんな感じの音楽をやっているのでしょうか?」と訊かれ、だいぶ困った。窮余の策として挙げたのはsugar soul feat. Kenjiの"Garden"であった。
第1話のクライマックスで五人が演っている曲がこれなのか? と問われると自信を持ってYESとは答えられないのだが、雰囲気を理解してもらうために適した曲ではある。
なお、第1話の中盤でブレーメン・カルテットとして四人が演奏した曲は、ドヴォルザークの"アメリカ"。
実際の曲をモデルにした方が演奏シーンが描きやすい、ということを第1話の時点では僕の方が考慮していなかったため、この曲だけTivさんが選んだ。民俗音楽をアレンジさせたらドヴォルザークの右に出る者はいない。開拓者時代のアイオワの夜明けが鮮やかに目に浮かぶような名曲である。
第2話の演奏曲はこちら。
映画『ゴッドファーザー』の"愛のテーマ"として知られる情感たっぷりなこの曲が、なぜ日本で暴走族の定番曲になってしまったのか、はっきりとした理由はわからない。バイクに取りつける六連ホーンの音階(ミファソラシド)で奏でられる有名曲がこれしかなかったから……というのが最も説得力のある説だ。
第3話で最後にこよりとチカがリズムバトルする曲は、作中に曲名こそ出ていないものの、はっきりとモデルとなる曲をTivさんに指定した。驚くなかれ、MUSEの"Hysteria"である。
「史上最高のベースリフ」にも選ばれたこの激烈な十六分音符の乱舞を、コントラバスで弾けるわけがない。だが漫画ならできる。漫画最高!
第4話で珠緒が練習しているのはバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」から、パルティータ第1番ロ短調。
珠緒はバッハ大好きの設定。
一方、母親に地獄耳で聞きつけられてしまった課題曲は、順に以下の通り。
LED ZEPPELIN "Black Dog"
JIMI HENDRIX "Little Wing"
CREAM "Crossroads"
AEROSMITH "Sweet Emotion"
こもりクインテットが演れそうなのはエアロスミスくらいだろうか。つくづく、ギターという楽器はビートを刻むために最適なのだと痛感させられる。
しかし彼女たちの挑戦はまだまだ続く。第2巻にもご期待ください。